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シンポジウム・研究集会の案内
第4回 生物海洋研究集会
   
 
西部北太平洋におけるハダカイワシ科魚類の生態学的研究 (word版)
杢 雅利 (水産総合研究センター東北区水産研究所)

 ハダカイワシ科魚類は、北極海を除く世界中の外洋の中・深層に生息し、マイクロネクトンと呼ばれる小型遊泳動物の中で最も優占する動物群である。本科魚類は35属約250種からなり、日本周辺海域では88種の生息が確認されている。この魚類の多くは昼間は中・深層で生活しているが、夜間は表層に浮上する日周鉛直移動を行い、主に甲殻類動物プランクトンを捕食することから、外洋生態系における三次生産者としての重要な役割を果たしているものと推測されている。また、マイワシやサンマといった水産有用魚種と同様な餌生物を捕食するため、餌の競合によってこれら浮魚類の資源変動にも影響を与えている可能性もある。
 我々は本科魚類の生態に関する基礎的な知見を蓄積する一方で、この生物が外洋生態系においてどのような役割を果たし、他の生物にどのような影響を与えうるのかを"定量的に"把握することを目的としている。本稿では、これまで行ってきた生態研究、特に摂餌生態、生活史および個体数変動について簡単に述べる。
1.優占種3種の摂餌活動とその日周性
 日周鉛直移動種のトドハダカ、半日周鉛直移動種のコヒレハダカおよび非移動種のセッキハダカの摂餌生態について調べた。トドハダカおよびコヒレハダカの主な餌生物はオキアミ類、カイアシ類、端脚類であった。セッキハダカの餌生物は、カイアシ類がその大半を占めた。トドハダカの胃内容物中の未消化個体の割合は、オキアミ類では昼間中層に留まっている時と夜間表層に浮上してから夜半までが高く、端脚類では夜間表層で非常に高かったが、カイアシ類では終日大きな変化が見られなかったことから、トドハダカは夜間だけでなく昼間も活発な摂餌活動を行っていることが明らかとなった。コヒレハダカでは、胃内の未消化個体の割合は、夜間表層に浮上してから夜半過ぎまでが高かったことから、夜間表層に浮上してから活発に摂餌活動を行うものと推測した。一方、セッキハダカは終日空胃率が高く、胃の中に保持している餌生物の量は湿重量で体重の0.1%前後と他の2種の場合と比べ極端に少なかった。また、本種では胃内容物の消化度に終日変化が見られず、終日散発的に餌を捕食していることが分かった。トドハダカの日間摂餌量は湿重量で体重の6.3%、夜間表層に浮上するコヒレハダカで3.0%、セッキハダカで0.33%と見積もられた。
2.生活史と個体数変動
 近年、黒潮域に生息する夜表性ハダカイワシ科魚類の個体数が長期的に変動することが報告され、表層性の生物だけでなく、外洋の中・深層の生物でも何らかの要因によってその個体数を変動させていることが推測される。そこで、三陸沖の黒潮・親潮移行域において1996-2001年(1997年を除く)5-6月に夜間表層トロールによってハダカイワシ科魚類を採集し、その優占種の個体数変動を解析した。移行域で産卵するナガハダカは約8倍の幅で変動し、1996年から2001年にかけてやや減少傾向であった。同じく移行域種で産卵場が黒潮域にあるオオクチハダカは4倍の幅で変動し、1998年以降、増加傾向であった。熱帯・亜熱帯種で同じススキハダカ属に属するアラハダカとススキハダカは同様な傾向を示し、1996年から1999年にかけて減少傾向であったのが、それ以降、増加に転じた。ゴコウハダカでは2000年まで個体数が低水準だったが、その後2001年にかけて増加した。これら熱帯・亜熱帯種の共通した特徴として、1999年または2000年以降、個体数が増加に転じている点が挙げられた。1998/1999年には北太平洋においてレジーム・シフトが起こっており、これによる海洋環境の変化がハダカイワシ科魚類の個体数変動に影響を与えているものと推測された。このレジーム・シフトでは黒潮域の水温が上昇し、本科魚類の餌生物として重要なカイアシ類の個体数が増加したという報告がある。これらによって、黒潮域に産卵場を持つハダカイワシ科魚類(熱帯・亜熱帯種および移行域種オオクチハダカ)にとっては、成長速度の増加、生残率の上昇が期待され、移行域に加入する稚魚および成魚の個体数の増加につながったものと考えられた。一方、亜寒帯種が長寿命であることを考えれば、移行域に産卵場を持つナガハダカの寿命は、寿命が1-2年と短い熱帯・亜熱帯種よりは長いことが予測されるため、レジーム・シフトによる影響が個体数の変動にはっきりと表れるのに時間がかかっているものと推測された。